世界の映画監督が影響を受け、尊敬した黒澤明監督。
世界中の名監督が黒澤明監督を尊敬した理由は、黒澤監督が生み出した演出技法にありました。
この記事では、『黒澤明監督に魅了された名監督たち』と『黒澤明が発明した演出手法』をご紹介いたします。
黒澤明に影響を受けた名監督たち
黒澤明監督は、アカデミー賞やカンヌ国際映画祭グランプリなど、数々の栄誉に輝きました。
そして彼の映画は、世界各国の映画監督に多大な影響を及ぼしたのです。
一例を挙げると、『ゴットファーザーシリーズ』のフランシス・フォード・コッポラ監督、「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカス監督、『ジョーズ』『E.T.』『インディージョーンズ』『ジュラシック・パーク』など、数々のヒット作を世に送り出したスティーブン・スピルバーグ監督などなど。
どちらも、誰しも一度はその名を耳にしたことのあるような、超有名な映画監督ですが、何を隠そう、この3人も黒澤映画に影響を受けたと明言しているのです。
もうこの時点で、十分に凄いですよね。
それほどに凄く、世界にその名を轟かせ、今なお称えられる黒澤明監督は、日本が世界に誇る名映画監督なのです。
黒澤明の何がすごいのか?
映画といえば、家庭のテレビでは味わえない、大スクリーンに映し出される『鮮やかな色彩』と、広いホールを生かした『臨場感のあるの音響』、この二つが大きな魅力かと思います。
その点でいえば、黒澤明監督が手掛けた映画は、モノクロのものも多く、古臭く感じてしまうのも否めません。
ですが、黒澤明監督の映画が、技術の進んだ今でも、名作とされているのも事実。
その一つは、黒澤明監督が用いた演出や技法の多くが、今でも『効果的』だとして、多くの映画で手本とされたているからではないでしょうか。
クロサワ映画の『何』が手本とされているのか?
それは、映画の随所に用いられた、革新的な演出と撮影技術なのです。
映画を撮る上で、撮影技術や演出は、ストーリーの根幹となる台本と同等か、それ以上に重要な印象を与えます。
人物写真で例えると、モデルが『ストーリー』、衣装やメイクが『撮影技術』と『演出』、と言えるかもしれません。
どんなにモデルが美人でも、衣装やメイクが酷ければ、その写真は酷い仕上がりになるでしょう。
また逆に、モデルが凡庸でも、衣装やメイクが素晴らしければ、その写真は好意的なものになるでしょう。
黒澤明監督の映画には、そんな『物語を素晴らしく、印象的にみせる』ための、撮影や演出の優れた方法が、多く活用されていたのです。
上の例でいえば、『斬新なデザインの衣装』と『印象的な美しさのメイク』といったところでしょうか。
しかも、それは今日でも『当たり前』に使われる程に、革新的なものだったのです。
その一部ですが、『クロサワ映画』が初だと言われている演出を挙げてみます。
音
この場合の『音』とは、効果音のことです。
ゲームなどでは、SEと呼ばれるものですね。
そうです、ボタンを押すと鳴る、あの音です。
え? 黒澤明監督がSEを考えたの?と思ったかも知れませんが、それは少し違います。
SE、効果音は、映画ができる前からありました。
ザルの中で小豆を転がして波の音を出す、といった具合に。
黒澤明監督が考え出したのは、もっと限定的な効果音です。
それが何かと言えば、『人が斬られた時の音』でした。
時代劇やコントなどの切り合いの場面で、誰しも一度は聴いたことがあるのではないでしょうか?
そうです、あの音を初めて映画に付けたのが、黒澤明監督なのです。
今ではこの演出が当たり前すぎて、無かった時はどうしていたかも想像が出来ない程ではないでしょうか。
この『斬殺音』と呼ばれる音の演出は、殺陣の歴史を変えたと言っていい程に、優れたものと言えるでしょう。
スローモーション
スローモーションで表現された印象的な場面は、記憶にありませんか?
例えば、映画「マトリックス」の代名詞となった、あの『銃弾を仰け反りながら避けるシーン』とか。
この演出方を黒澤明監督が生み出したと言われたら、驚く方も多いかと思います。
「マトリックス」以外にも、ぱっと浮かぶだけでも「トランスフォーマー」や「スパイダーマン」などでも、使われていたのを覚えています。
そんなスローモーション自体は、既にあった技術だそうです。
しかし黒澤明監督は、これを実に効果的に、映画の中に、演出として組み込んだのです。
例えば、斬り合いの決着が着く瞬間。具体的には、斬られた役者が倒れ込むといった、まさに皆が注目する物語上での決定的な瞬間を、スローモーションを使ってみせたのです。
人が重大な場面に直面すると、その瞬間がスローモーションのように感じられることがあります。
いわゆる走馬灯と呼ばれる現象も、その一つです。
黒澤明監督のスローモーションの使い方は、そんな人の身に起こる現象を、擬似的に再現する効果がありました。
この演出を目の当たりにしたハリウッドの監督たちが大いに驚き、後に多くの監督たちが影響を受け、作品に取り入れたのです。
血
クロサワ映画以前のチャンバラは、『斬殺音』が無かったのと同じように、役者が斬られた時の表現そのものも、痛そうな演技の後に倒れらるだけ。
その点からいえば映画は、映画館でスクリーンに映し出される『演劇』だったのです。
それを変えたのが、黒澤明監督の手掛けたとある映画のラスト。二人の侍の雌雄を決するするシーンでした。
ここで黒澤明監督は、斬られた方が、大量の血を吹き出させる仕掛けを用いて、『斬られて血柱が上がる様』を撮影したのです。
怪我をしたら血が出る。映画のみならず、ドラマなどの映像作品では、当たり前の演出に思えますが、これも黒澤明監督が生み出した演出だったのです。
BGM
演劇や映画などに留まらず、いわゆるBGMと呼ばれる場面の雰囲気を印象付ける音楽は、重要な演出の一つです。
例えば、テレビ番組の心霊特集では、おどろおどろしい音響は、恐怖を引き立てるのに大いに役立っています。
楽しいシーンでは楽しい曲を流し、悲しいシーンでは悲しい曲を流す。
これは、普遍的な『おやくそく』というものです。
しかし黒澤明監督は、この『おやくそく』を、意図的に外しました。
例えば、死期の迫った主人公が、街をさまようシーンがありました。
普通ならば、ここは主人公の心情に沿った悲しげな曲を流し、悲しい雰囲気を演出するところです。
けれども黒澤明監督は、ここであえて『明るい曲』を流しました。それも、街に流れる流行歌を。
この演出は、『楽しげな流行歌』を流すことで、『それが流れる街』と、『それを聴く観客』すらも主人公の心情から切り離すことによって、彼の孤独をより鮮明に印象づけることに成功したのです。
この、『場面にそぐわない曲を流す演出』の効果も、今では様々な作品にて取り込まれています。
凄いですよね。現代の私たちが何気なく見ていた、映画やドラマなどに使われているあの演出が、実は黒澤明監督の産み出したものだったなんて……。
まとめ
『黒澤明監督に魅了された名監督たち』と『黒澤明が発明した演出手法』をご紹介しました。
黒澤明監督の残した演出手法は、そのジャンルを超えて、映画はもちろん、ドラマや舞台、はてはアニメの中にも、今もなお大きな影響を与え続けているのです。
今もなお、映画界やショービジネス界に影響力を残し続けている黒澤明監督。
世界のクロサワといわれ続ける理由は、ここにあるのだと思います。
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